3.4%増。2025年のコンビニエンスストア販売額は、前年比で伸びた。加工食品、ファーストフード及び日配食品など、商品別でも全項目が増加した。数字だけを見れば、コンビニはまだ強い。
だが、売上が伸びていることと、全店が24時間営業を維持できることは別問題である。販売額の伸びは、1店舗当たり販売額、客単価、高付加価値商品の力で説明できる。営業時間の長さだけが、コンビニの成長源泉ではなくなった。
24時間営業の限界は、売上不足ではなく、人件費が逃げ場のない固定費に変わったことにある。深夜に客が少なくても、レジ、納品、清掃、防犯、廃棄管理は残る。灯りをつけるコストは、もう精神論では吸収できない。
24時間営業の問題は売上ではなく、最低賃金に連動する固定費である
深夜帯は売上の空白より人件費の実弾が先に来る

深夜営業の損益は、客数より先に人件費で決まる。理由は、客が来ない時間でも人は置かなければならないからだ。コンビニは無人の棚ではない。レジ対応、納品、清掃、防犯、廃棄管理がある限り、最低限の人員配置は固定費として発生する。
約655万円は、令和7年度の全国加重平均最低賃金1,121円を使った下限試算である。22時から5時までの深夜割増を加えると、同じ2名体制でも約798万円まで上がる。ここには社会保険、採用費、教育時間、欠員時の代替コストは入っていない。深夜の売上が細い店ほど、人件費率だけが先に悪化する。次に見るべきは、この固定費の床を押し上げる最低賃金である。
最低賃金はコンビニ時給の床を持ち上げる
最低賃金は、コンビニ経営にとって単なる労務ニュースではない。理由は、採用市場で他業種と競合しながら、店舗側の粗利には上限があるからだ。最低賃金が上がるほど募集時給の下限も上がり、売上が同じなら深夜帯の損益分岐点は上がる。
| 地域・指標 | 最低賃金 | 営業判断への影響 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 全国加重平均 | 1,121円 | 深夜固定費の基準線になる | 負担増 |
| 東京都 | 1,226円 | 夜間売上が高い立地でなければ維持が重い | 高負担 |
| 高知県・宮崎県・沖縄県 | 1,023円 | 最低水準地域でも1,000円台に入る | 底上げ |
| 深夜割増 | 25%以上 | 22時〜5時の人件費を押し上げる | 追加負担 |
最低賃金の上昇は、働く側には必要な是正である。一方、加盟店には逃げにくい固定費として届く。ここで問われるのは賃上げの是非ではない。賃金を上げる社会で、全店24時間を当然視する設計が残れるのかという問題である。
人手不足は一時的な採用難ではなく、仕事内容と待遇のミスマッチである
従業員不足61%という数字は、現場の限界を示している

コンビニの人手不足は、求人広告を増やせば終わる問題ではない。理由は、仕事内容が広がった一方で、待遇がその複雑さに追いつきにくいからだ。公共料金、宅配、チケット、揚げ物、アプリ施策、セルフレジ補助、清掃、防犯。店員に求められる作業は、昔の「レジ係」より広い。
この数字が示すのは、採用の失敗ではなく、業務量と時給の釣り合いが崩れた状態である。人が集まりにくい時間帯ほど、店舗は高い時給を出すか、オーナー自身が入るしかない。深夜営業は、このミスマッチを最も鋭く露出させる。
深夜営業はオーナーの労働で穴埋めされる
人手不足の最終的な受け皿は、加盟店オーナーである。理由は、店を閉められない前提があるほど、欠員を誰かが埋める必要があるからだ。本部のブランドは全国に広がるが、深夜の欠員は一店舗のバックヤードで発生する。
人手不足は「求人の問題」ではなく、
24時間営業を誰の労働で支えるのかという配分問題だ。
── 本稿の中心命題より
公取委調査では、オーナーの1週間当たり平均店頭業務日数は6.3日、年間平均休暇日数は21.3日、1週間当たり平均店頭業務時間は44.4時間とされる。さらに年間平均深夜勤務日数は84.7日で、現在の業務時間を「どちらかといえば辛い」「非常に辛い」とする回答は62.7%に達する。加盟店の疲弊は、損益計算書より先に休日と睡眠に出る。
ここで全店時短という単純な答えに飛びつくと、問題の半分を見落とす。次に必要なのは、店を閉めるべき店舗と、開ける価値がある店舗を分ける視点である。
それでも全店時短が正解ではない
都市型店舗では夜の売上が看板代を兼ねる

24時間営業を一律に否定するのは粗い。理由は、深夜需要が立地で大きく違うからだ。駅前、繁華街、病院周辺、物流拠点近くでは、深夜の来店が売上だけでなく認知や安心感にもつながる。
| 立地タイプ | 深夜需要 | 人件費負担 | 営業時間判断 |
|---|---|---|---|
| 駅前・繁華街 | 高い傾向 | 高い | 24時間維持の余地あり |
| 病院・工場近接 | 一定の需要 | 中〜高 | 曜日別・時間帯別で検討 |
| 住宅地 | 低くなりやすい | 固定的 | 時短候補 |
| 郊外ロードサイド | 交通量次第 | 固定的 | POSと交通量で判断 |
都市型店舗では、夜の営業が「売る時間」であると同時に「見られる広告」でもある。看板が消えないこと自体がチェーンの信頼になる。だが、その価値は全店に均等ではない。深夜営業は原則ではなく、立地別の投資判断として扱う必要がある。
反証:深夜営業が社会インフラになる地域がある
深夜営業には公共性もある。理由は、夜勤者、長距離ドライバー、医療従事者、急な買い物を抱える生活者にとって、深夜のコンビニが代替しにくい拠点になるからだ。災害時には、灯りのある店が地域の安心にもなる。
深夜営業の価値を売上だけで切ると、夜間労働者や移動者の生活インフラを過小評価する。病院、工場、幹線道路沿いでは、短時間営業が地域の利便性を下げる可能性がある。
したがって、24時間営業の見直しは「やめるか、続けるか」では足りない。必要なのは、深夜営業の社会的価値と加盟店の負担を同じ表に乗せることだ。次の焦点は、本部がその判断をどこまで加盟店に渡せるかである。
本部が守るべきは24時間ではなく選択権である
公取委の視点は営業時間の強制を経営問題から取引問題に変えた
24時間営業は、単なる店舗運営の話ではない。理由は、加盟店が独立した事業者でありながら、チェーン契約によって営業時間の裁量を制約される構造があるからだ。公取委資料では、年中無休・24時間営業を条件として契約すること自体は、加盟者募集時に十分な説明がある場合、直ちに独占禁止法上問題となるものではないと整理されている。
問題は「24時間営業そのものが違法」という話ではない。契約後に本部が一方的に営業日や営業時間を変更して不当に不利益を与える場合、または時短営業への協議を一方的に拒絶して不利益を与える場合に、独占禁止法上の問題が生じ得る。
公取委調査では、時短営業について「引き続き24時間営業を続けたい」と回答した割合は33.2%にとどまり、66.8%は一時的な時短、実験、完全切替のいずれかを望んだ。一方、時短営業に関する本部との交渉状況では、交渉自体を拒絶しているとの回答も8.7%あった。守るべきは24時間という形式ではなく、店舗ごとの合理的な選択権である。
一律運用は加盟店の損益分岐点を隠す
一律の営業時間は、店舗別の損益分岐点を見えにくくする。理由は、赤字の深夜帯が日中の売上に吸収され、どの時間が利益を生み、どの時間が労働で穴埋めされているか曖昧になるからだ。
24時間営業を続けるべき店はある。
だが、続ける理由を全店同じ言葉で説明する時代は終わった。
── 店舗別損益の論点
深夜売上、時間帯別客数、人件費、納品時間、防犯リスク、近隣競合、朝の立ち上がり。この要素を店舗別に比べれば、続ける店と休む店は自然に分かれる。選択制の営業時間は、ブランドの崩壊ではなく、加盟店の損益責任を現実に合わせる仕組みである。
次のコンビニは夜を削って朝を強くする
時短の本質は撤退ではなく営業時間の再配分である
時短営業は、コンビニの後退ではない。理由は、削った深夜人件費を朝・昼・夕方の商品力、清掃品質、接客教育、在庫精度に振り向ける余地が生まれるからだ。営業時間を短くすることと、店舗価値を下げることは同義ではない。
| 施策 | 短期効果 | 中期効果 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 深夜営業維持 | 利便性を維持 | 人件費負担が固定化 | 立地限定で有効 |
| 深夜時短 | 人件費を圧縮 | 朝の品揃え強化に再配分する余地 | 住宅地で有効 |
| 曜日別営業 | 繁閑差に対応 | 人員計画を安定化 | 柔軟性あり |
| 無人・省人化 | 一部作業を削減 | 防犯・補充は残る | 補助策 |
深夜の赤字を守るために、朝の棚が弱くなるなら本末転倒である。客が多い時間に商品があり、店が清潔で、スタッフが疲弊していない。その方が、灯りを消さないことより強いコンビニらしさになる。
3.4%増でも、コンビニはまだ24時間でなければならないのか──人件費が暴いた便利さの値札への答え
答えは、全店一律の「はい」ではない。理由は、人件費、客数、立地、公共性が店舗ごとに違うからだ。24時間営業は、かつてチェーンの標準装備だった。これからは、選ばれた店舗が採用する経営オプションになる。
コンビニの価値は、24時間開いていることではなく、
必要な時間に必要な密度で機能することに移る。
── 「コンビニはまだ24時間でなければならないのか」への答え
便利さには値札がある。その値札を消費者が払うのか、本部が払うのか、加盟店オーナーの睡眠で払うのか。人件費の上昇は、この問いを棚の奥からレジ前に引っ張り出した。
24時間営業を守る店は残る。だが、休む店もまたコンビニの未来を守る。便利さは終わらない。ただ、次に強い店ほど、眠らないことではなく、休む時間を選ぶことで朝の客を取りにいく。
出典メモ:最低賃金は厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金額答申」、深夜割増は厚生労働省「確かめよう労働条件」、2025年の小売・コンビニ販売額は経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」、24時間営業と加盟店取引の論点は公正取引委員会のコンビニエンスストア関連資料を参照。
